コインロッカー・ベイビーズ
村上龍の コインロッカー・ベイビーズ を読んだ。
生後まもなく駅のコインロッカーに置き去られたキクとハシ、二人の孤児の物語。二人は九州の離島に住む夫妻に引き取られ、成長し、そして東京へ行く。
読後感は「愛と幻想のファシズム」を読んだときのそれとよく似ていた。
「高慢でいい、自惚れろ、強く生きろ、世界が気に入らないならぶっ壊してしまえ」と訴えかけられたような気分。
キクとハシは乳児院時代(九州へ引き取られる前)、その生い立ちのせいもあってか自閉症的傾向があるとされ、精神科医による治療を受ける。その際、二人はある音を聞かされある種の催眠状態となって自閉症的傾向は改善されていく。
ハシはやがてその"音"を探すようになり、東京での生活の中であの音は心臓の鼓動だったと気づく。そして胎内で聞いた心音が伝えるものは「死ぬな、死んではいけない」という信号だったと理解する。
一方キクは紆余曲折あって、自分を捨てた母親を(明確に意図したわけではないが)殺し、最後には米軍が小笠原諸島に沈めた、生物の凶暴性・暴力性を解放する神経兵器"ダチュラ"を東京にばら撒いて都市への復讐を果たす。
こう書くとキクがとんでもないやつのように思われるかもしれないが、ハシもハシで精神を病み、妊娠した妻の腹を刺したりもしている。
キクとハシが生まれたのは夏で、蒸し暑いコインロッカーのなかで生き延びた二人は生命力・エネルギーに満ちている。特にキクのエネルギーは強大で、自分のような存在を生んだ都市という"コインロッカー"を破壊することがキクの生き方であり、自身の生い立ちの克服となった。
一方ハシは、「自分はかわいそうなやつだ」という自己憐憫の傾向があり、妻を刺傷することをはじめとして様々な奇行を繰り返す。それこそ「死にたい」「殺してくれ」というようなことを言うメンヘラ男だった。しかし最後には心音の意味を理解し、自らの欠落を受け入れて新しい生き方を志す。
コインロッカーに捨てられたという生い立ちを二人は別の方向で、ほとんど対照な形で克服する。どちらが良い悪いではなく、その根底に共通してあるのは、「死ぬな、強く生きろ」というエネルギーの賛美だと私は思う。
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