折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

表題通り、現代中国SF13編を収めたアンソロジー。

このような短編集や、複数の作品を収めたものは掲載順を気にせずに、興味をもったところから読むという読み方もあると思うが(私はそうしないが)、本書においては前書きは読んでおくとよいかもしれない。

編者であるケン・リュウは前書きで、「貧富の格差や、検閲といった現在の社会問題への風刺というコンテクストで中国のSFを読みたくなるのはわかるが、できるだけそうした誘惑に抵抗してほしい」と述べている。私も中国SFに限らず、SFには未来予測や社会風刺のコンテクストを見出しがちだが、中国SFにはより強くそういうイメージを持っていた。そういったコンテクスト性を完全に排して読むのは難しいかもしれないが、「中国SF」という先入観は除いて読むこととした。

もっとも面白いと感じたのは全世界的人気作「三体」の作者、劉慈欣がその「三体」から抜粋改作した「円」だ。舞台は古代中国で、荊軻という燕国からの刺客が後に中国を統一し「始皇帝」となる秦王政に謁見するところから始まる。史記では荊軻は政の暗殺を試みて返り討ちに遭うが(高校の古典の授業で習った人もいるかもしれない。私は習った)、この「円」では荊軻は政に取り入り、配下として気に入られる。天の理(ことわり)を知りたいと望む政に荊軻はそれは図形と数字に現れると話し、そして円周率10万桁の計算を命じられる。

まさしく社会問題の風刺というコンテクスト抜きに、古代中国において円周率を10万桁まで計算するというサイエンスの壮大さもありながらいかにも"ありそう"と思わされる感じと、いわば"荊軻のifストーリー"というフィクションの側面がうまく噛み合っており、サイエンス・フィクションとして素直に面白い。「三体」は未読なのだがぜひとも読んでみたいと思わされた

ほかには「沈黙都市」「折りたたみ北京」が印象的だった。巻末には中国の文学の世界におけるSFに位置づけ、歴史についてのエッセイも収録されており、それもなかなか興味深いものだった。

コメント

このブログの人気の投稿

日常に目を向ける

ブログを書きたい

家にあるもので頑張って書き初めしてみた

2日連続でスーパーに行くのは精神衛生上好ましくない場合がある

散財記録 202404-202407

歴史と現在について

書き初め懐古・検討編

キャベツ生活